2010年の年明け、Paper Worldというフランクフルトで行われる紙製品の見本市へ行ったついでに、旅の最後にミュンヘンにある活版工房を訪問しました。工房の主はChrista Schwarztrauber(クリスタ・シュヴァルツトラウバー)さん。※クリスタさんとは基本的にドイツ語でのコミュニケーションのため、野口はざっくりしか理解していません。意訳な点はご了承ください。


<FLIEGENKOPF フリーゲンコップフ>
http://www.fliegenkopf-muenchen.de/

クリスタさん、『デザインのひきだし2』にも掲載されていますし、荻窪でグラフィックと活版を手掛けられているルフトカッツェさんとは親交が深く日本でトークイベントをされたこともあるそうで、ご存知の方もいるかもしれません。また、ユトレヒト(NOW IDeA)でもクリスタさんの作品を扱っておられます。
「ブックフェアには出展料、宿泊費が高くつきすぎちゃうから私はとても出られないけれど、Eguchi(ユトレヒトの江口さん)は工房まで足を運んでくれたの」とクリスタさん。国を越えてもリンクは色々なところにあるようで。

<ルフトカッツェ>
http://www.luftkatze.com/
<ユトレヒト※クリスタさんのページ>
http://www.utrecht.jp/person/?p=287

FLIEGENKOPFでは、子供用のアルファベットブック、ポスター、カードなどなど、クリスタさんがタイポグラフィの作品制作をするほか、若い学生がタイポ作品を作れるようにワークショップの場を提供しています。ドイツでも若い学生が活版印刷に触れる機会は少ないようで、積極的に機会を提供しておられるとのこと。素敵。日本でも若い人ほど活版印刷に興味を持っていますよね。「コンピューターは早くて便利だけれど、きっとそればっかりだとスローでこういう物質を扱うものに魅かれるのね。」


工房のなかには多くの薄いひきだし。このなかに様々な書体の活字が納められています。見慣れた金属活字以外にも、クリスタさんは多くの木活字(木を彫った活字)をお持ちです。ある程度の大きさをこえると、欧文タイポでは木活字を使用します。(大きなものは30cm近くあるものも!)木の方が当然痛みやすく、均一に刷るのも難しいですが、木活字を使う一番の理由は、大きな活字も金属にしてしまうと活字を組んだ版が重過ぎて持ち上がらなくなってしまうから。金属活字も、やや大きめのものは中空にするなどの工夫が見られます。

↑わりと新しい木活字です

↑このでっかいAも木活字のもの

↑注文のあった活字を揃えるクリスタさん

他に、これは私も初めて見たのですが、木のベースに樹脂の印面を貼り合わせたものもありました(次の写真)。日本語書体のように細かいものは耐久性を考えると活字にするのは難しいですが、(一枚の樹脂版にするのは○)大きめのアルファベットならこういう使い方もできるんですね。



変わったものでは、部屋の一角に飾ってある組版に、見覚えのある大小いくつもの『DB』のマーク……。これ、ドイツ国鉄 DeutschBahn の記号なんです。

FLIEGENKOPFでは、かつてFahlplan(印刷用の時刻表)や切符の印刷もやっていたのだとか。このDB活字がいまもあるのはクリスタさんの工房だけだそうです。

↑この小さいチェース(枠)の正体は…… ↓昔の切符の印面です


他にも特徴的なのは、部屋のなかところどころある「ハエ」の形をした照明やオブジェ。FLIEGENKOPFとは直訳すると「ハエの頭」になります。必要な活字がないとき、ひとまず別の活字を裏返して入れておくコレ→〓、この印をドイツではFLIEGENKOPFというんですね。なので気をつけて見るとハエの頭がそこかしこに……。ちなみに同じものが日本では「ゲタ」と呼ばれます。


こうして興味深いものをたくさん見せていただいたり、お茶をいただきながら片言のドイツ語でお話しているうちに気付けば2時間も経っていました。実はこの日、午前中に凍った湖を見に行こうとミュンヘン近くにあるピルゼン湖に向かい、雪に埋もれながら写真を撮っていて、旅の疲れも合わさって到着時点でかなり疲弊してたのですが、主の暖かい人柄とたくさんの活字にすっかり癒されました。クリスタさんもまた日本に行きたいとおっしゃってたので、国内でも会える機会があるかも……?
私もミュンヘンへ行った折にはぜひ再訪したいと思っています。

その他のFLIEGENKOPFの写真→ FLIEGENKOPFアルバム

ところでこの日の午前中に行っていたピルゼン湖。バイエルン地方にいくつもある大きな湖と比べるとこじんまりした小さなもので、観光客はほとんど来ないと思うのですが、可愛らしい家の並ぶ美しいところでした。リスやウサギの足跡がいくつもあり、閑静な片田舎を堪能しに行くには良い場所かもしれません。

そちらの写真もこちらに→ ピルゼン湖とちょこっとミュンヘン

このごろ冬にばかり行っているドイツ(フライト安いので……)、次はもうちょっと暖かいときに行きたいところです。